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台本提供
la fraise(https://lafraisewritingstudio.com/)
『愛は穏やかに、そこにあって』本文はここから
「朝ごはんできたよ」
「はーい、ありがとう」
すっかり聞き慣れたテノール。
私は空になった洗濯カゴを片手に、冷房のきいたリビングへと戻っていく。
「今日の最高気温、35度だって」
「私が子どもの頃、こんな暑い日なかった気がするんだけど」
「プールの水温低くて授業中止とかあったよな」
「あー、あったあった」
サイドボードに置かれた指輪を身につけながら、夫はいつもの席に座る。続いて腰かけた私の席は、夫の真正面。
私は少しだけ視線を外し、テレビに目をやった。
お天気お姉さんは今日もニコニコしながら、ここ最近恒例になった熱中症対策について語っている。
「んじゃ食べようか、いただきます」
「いただきまーす」
夫のかけ声に続いて食事のあいさつをすると、私はバターナイフを手に取った。
それを握る手には、バターナイフと同じ色の指輪。
少しだけ傷が目立つようになってきたな、とぼんやり思う。
こんがりとキツネ色に焼けたトーストにバターを塗っていると、夫が少しだけ照れながら言った。
「今度の休み、池袋の水族館でも行こうか」
「え、めっちゃ久しぶりじゃない? どうしたの急に」
池袋の水族館。私たち夫婦が、初デートで訪れた場所だ。
ふたりで出かけることじたい初めてのことで、すごく緊張していたのを覚えている。
「部屋を掃除してたら、大学時代の写真が出てきてさ。付き合い始めた頃のことを思い出しちゃって」
そう言って笑う夫は、素直に可愛いなと思う。
あの頃は隣を歩くだけで、少し手が触れただけで、心臓が大きく跳ねてたまらなかった。
そんな甘酸っぱい感情もいつしかなくなり、彼といると安心するようになったのは、いつからだっただろうか。
「いいね、行こう」
「ついでに池袋散策でもする? 行きたいカフェがあるって言ってなかったっけ」
「あ、そこも行きたい!」
私がポツリと話したことを、覚えてくれている夫。
きっと彼はアイスコーヒーと、モンブランを頼むんだろうな。
そんなことを考えながら、私はヨーグルトの器を手に取る。
上にはフルーツシリアルがかかっていて、よく見ると夫のものよりも苺が多い。
「そういえば昨日の夜、洗面台の掃除しといたよ」
「ありがとう、綺麗になってるからそうかなと思ってた」
「私の髪の毛がいっぱい絡まってて……。そりゃ流れも悪くなるよね」
「長いんだからしょうがないよ」
結婚してから今まで、何度こんな会話をしただろう。
朝起きて、一緒に朝食をとり、お互い仕事をして帰ってきて、一緒に夕食をとり、同じベッドで眠る。
これから何百回、何千回と繰り返される平穏。
その隣にはいつだって、あなたがいてほしい。心からそう思う。
あの頃のドキドキを恋と呼ぶならば、夫となったあなたに抱く穏やかな気持ちは、愛と呼ぶのかもしれない。

