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la fraise(https://lafraisewritingstudio.com/)
『夏』本文はここから
思い出すのは遠い夏の日。
たしか、小学校4年生になった年だったか。
僕はいちばんの親友とともに、学校の裏山に秘密基地を作った。
お互いの好きな漫画を持ち込んだり、お菓子やジュースを持ち込んだり。
家の冷蔵庫でキンキンに冷やしてあったはずのジュースも、秘密基地に着く頃にはすっかりぬるくなっていて、ふたりで「ぬるい!」って笑い合ったっけ。
今までとは違う夏だった。
網とカゴを持ってカブトムシをとって、お互いのカブトムシどうしを戦わせたり、学校の近くにある川で魚をとったり。
君とそういうことをするのは初めてではなかったのに。
小学校に入学してからというもの、彼とは通学の道のりでも、教室でも、毎日毎日うるさいくらいに話をしていたのに。
あの夏は、君がなんだか違う人に見えた。
キラキラと輝く瞳で僕を見て、少しかすれた、けれど弾んだ声で僕の名前を呼んで。
僕は、なんだか君の「特別」になれたような気がして、それが嬉しくてたまらなかった。
彼のいちばん近くにいるのは、他でもないこの僕なのだ。
そう、世界中の人たちに自慢してまわりたいくらいに。
あれから20年以上の時が過ぎた。
今になって、なぜいきなり君のことを思い出したのだろうか。
中学校に上がると同時に離れ離れになって、それきり連絡もとっていない。
当時は子どもが連絡を取る手段なんて、家の電話か手紙くらいしかなかった。
小学校の卒業式では、あれだけ「また遊ぼうね」と約束し合ったはずなのに。
中学校に入って、僕は新しい友達ができて、部活動も忙しくなって。
特別だったはずの君は、いつの間にか「子どもの頃に仲が良かった子」になってしまった。
少し遅れていた電車を降りて、早歩きで乗り換えのホームへと向かう。
その途中、スーツケースを持った夫婦と、真っ黒に日焼けした男の子を見かけた。
そうか、世間ではお盆休みなのだ。
接客業をしていると、どうも日付と曜日がわからなくなる。
君のことを急に思い出したのは、新幹線の乗り場方面へ向かう彼らを見たからだろうか。
乗り換えのホームに滑り込むと、ちょうど乗るはずだった電車が出発するところだった。
職場に着くのはギリギリになってしまうけど、間に合うからまぁいいだろう。
次の電車が来るまで5分。
その間もう少しだけ、君に思いを馳せよう。

