【1000字ショート】夏【目安3分】

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『夏』本文はここから

思い出すのは遠い夏の日。

たしか、小学校4年生になった年だったか。

僕はいちばんの親友とともに、学校の裏山に秘密基地を作った。

お互いの好きな漫画を持ち込んだり、お菓子やジュースを持ち込んだり。

家の冷蔵庫でキンキンに冷やしてあったはずのジュースも、秘密基地に着く頃にはすっかりぬるくなっていて、ふたりで「ぬるい!」って笑い合ったっけ。

今までとは違う夏だった。

網とカゴを持ってカブトムシをとって、お互いのカブトムシどうしを戦わせたり、学校の近くにある川で魚をとったり。

君とそういうことをするのは初めてではなかったのに。

小学校に入学してからというもの、彼とは通学の道のりでも、教室でも、毎日毎日うるさいくらいに話をしていたのに。

あの夏は、君がなんだか違う人に見えた。

キラキラと輝く瞳で僕を見て、少しかすれた、けれど弾んだ声で僕の名前を呼んで。

僕は、なんだか君の「特別」になれたような気がして、それが嬉しくてたまらなかった。

彼のいちばん近くにいるのは、他でもないこの僕なのだ。

そう、世界中の人たちに自慢してまわりたいくらいに。

 

あれから20年以上の時が過ぎた。

今になって、なぜいきなり君のことを思い出したのだろうか。

中学校に上がると同時に離れ離れになって、それきり連絡もとっていない。

当時は子どもが連絡を取る手段なんて、家の電話か手紙くらいしかなかった。

小学校の卒業式では、あれだけ「また遊ぼうね」と約束し合ったはずなのに。

中学校に入って、僕は新しい友達ができて、部活動も忙しくなって。

特別だったはずの君は、いつの間にか「子どもの頃に仲が良かった子」になってしまった。

少し遅れていた電車を降りて、早歩きで乗り換えのホームへと向かう。

その途中、スーツケースを持った夫婦と、真っ黒に日焼けした男の子を見かけた。

そうか、世間ではお盆休みなのだ。

接客業をしていると、どうも日付と曜日がわからなくなる。

君のことを急に思い出したのは、新幹線の乗り場方面へ向かう彼らを見たからだろうか。

乗り換えのホームに滑り込むと、ちょうど乗るはずだった電車が出発するところだった。

職場に着くのはギリギリになってしまうけど、間に合うからまぁいいだろう。

次の電車が来るまで5分。

その間もう少しだけ、君に思いを馳せよう。

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