【FF零式】ただひとつのその名前を

戦いが終わって1年。
オリエンスの復興も少しずつ進み、指導者となり働きづめだったマキナやレムにも、少しずつ余裕がもてるようになっていた。

とある夜、レムは自室の机に向かい、一冊のノートを眺めていた。
それは、まだ彼女が魔導院にいた頃、ともに作戦に出る仲間の名を記すために使っていたもの。
今はもう、知らない名前ばかり。表紙をめくってから数十ページに至るまで、それらがびっしりと書き留められていた。

「……レム?」

背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはマキナが立っていた。
風呂上がりらしい彼は、まだ生乾きの髪を布で拭きながら、こちらへと歩いてくる。

「なにしてるんだ?」

「……あのノートをね、見てたの」

あのノート、と言うだけで、何を指すのかマキナはわかってくれる。
まだ別の組にいた頃から、彼女が大切に持ち歩いていたそのノートを、マキナは幾度となく目にしていたからだ。

ぱらぱらとページをめくる。最後まで使われることのなかったそのノートは、途中から白紙になっていた。

その、白紙になる直前の記述。
そこに書かれた名前を見て、レムは目を細める。
手を止めた彼女を見て、マキナもそのページを覗き込んだ。

そこに書かれていたのは、かつてふたりと同じマントを纏い戦った、12人の戦士の名前。

記述がそこで途切れているのは、作戦の遂行において、彼らは絶対に死ぬことがなかったからだ。
正確には、作戦中に死んでしまったとしても、ドクター・アレシアが蘇生してくれていた。だから、このノートにはそれ以上、新しい名前が書き留められることはなかった。

丁寧な字でノートに記された、朱き戦士たちの名前。それは、レムとマキナにとって特別なものであった。

このノートに記された名前の中で、ふたりが唯一、覚えている名前なのだ。

842年、空の月07日。
マザーの子供たちは、生まれて初めて、自らの運命を自分たちで決めた。
マキナとレムが目にした彼らの最期は、哀しくも誇らしげであった。

「……ねえ、マキナ。あのときドクターから言われたこと、覚えてる?」

「……ああ」

ここから先は、死を忘れることができない世界になる。
あなたたちだけは、彼らの事を覚えていてあげて。

「……忘れるもんか。絶対に」

震える声でそう呟くマキナに、レムも頷く。
彼女は、ノートに書かれた12人の名前を愛おしそうに撫で、口を開いた。

「ねえ、マキナ。明日は久々にお休みでしょ?  一緒にね、お買い物行きたいな」

「買い物? いいけど」

「欲しいものが、あるんだ」



次の日の夜、ふたりは家に帰るが早いが、買い物袋からあるものを取り出した。

それは、写真立てだった。

レムは、ノートから0組の名前が書かれたページを千切り、写真立てにはめ込む。
マキナは、箪笥からあの朱いマントを取り出すと、写真立ての枠組みに合わせて切り取り、それを枠に貼り付けた。

誇り高き朱い布の額縁に囲まれた、12人の大切な名前。
それは、マキナとレムが暮らすこの部屋の、小さな食卓の上に飾られた。

歴史に置き去りにされた彼らが生きていた証を、残すために。


エース。
デュース。
トレイ。
ケイト。
シンク。
サイス。
セブン。
エイト。
ナイン。
ジャック。
クイーン。
キング。


君たちは、ここだ。







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